【2005年度の日本の状況】
◆ クリプトスポリジウムの対応問題
 水道によるクリプトスポロジュウムの日本での集団感染発生から10年たって、水道界もその対策に本腰を入れてきたようだ。
日本水道協会誌(平成18年2月)に麻布大学の平田教授が「紫外線消毒技術の導入」を言われている。設置費用が他の方法に比べて1/20〜1/30程度と、費用対効果に極めて優れている事を力説している。

 日本水道協会第74回総会でも、クリプトスポロジウム対策としての紫外線について、厚生労働省、国土交通省からも、その対応を継続して検討している旨の返答が出ている。
現状の処理基準が省令第五条の八で「除去する事ができる濾過等の設備が設けられていること」の文章の「等」に紫外線が含まれていないとの判断が使用できない要因らしい。
法律用語で言えば、「等」が付くと、ほとんど「オールマイティー」に何でも出来るわけではこの場合無かったわけだ。

カルゴン特許の問題(下記に示す)はあるものの、日本の水道界で、やっとクリプトスポロジウムに対して紫外線技術を使おうとした機運が出てきた。
1999年11月にクランシーコンサルタントの「レクリエーション用水中のCryptosporidium parvum Oocysts(クリプト小生子接合子嚢)不活性化評価」の論文発表から随分時間が経過した。

参考にクランシーコンサルタントの結果と評価したフローを次に示しておく。

【世界がビックリさせられた有効なクリプト対策】

 クリプト対策として色々な殺菌手段が模索され、クリプトが殻にくるまれて塩素消毒が有効でない事からも、紫外線(UV)は大腸菌などに比べて大きなUV照射線量が必要と考えられていた。通常水の消毒(大腸菌対象)ではUV照射線量は30mw/cm2であるが、クリプトの殻を透過させて殺菌するためには300500 mw/cm2程度必要と予想されたが、この様な強いUV線量を水に照射すると水中にある硝酸塩が毒性のある亜硝酸塩に変化する事が知られており、逆に危険性が増すことからUVは有効でないと考えられていた。

 ところが大腸菌より少ないUV線量で無害化できることが最近になって判明した。クリプトは人の体内に入ると、そこで分裂し増加して毒性を放出するが、クリプトのDNAUVが作用して毒性がなくなり、クリプトが増殖しなくなるらしい(クリプトの生きている死と呼び方あるようだ)

アメリカの「クランシーコンサルタント」の実験レポート(199911月にフロリダ州タンパのワニが住んでいる池の水を使用して、中圧紫外線ランプを使用した)によると、10 mw/cm2以下のUV線量で無害化できた報告である。
 クランシーコンサルタントのHP  http://www.clancyenv.com/
(かなりのUVのメーカーからクリプトの実験を依頼されているようである)

 「クランシーコンサルタント」の報告書は日本では最初に入手したと思う。この実験で使用した英国のUVのメーカーの社長はロサンゼルスオリンピックの英国のフィン級の候補選手で、アメリカズカップで活躍しているフィン乗りの参加者達とフィンでのレース時代に競ったとの事だ。ヨットレースの話をしてた時に、UVの話からクランシーコンサルタントが行ったUV実験の話を聞いた。早速その報告書を送ってもらったことから、国内の関係者に参考文献として配布した。
クランシーコンサルタントで実験に使用された「中圧UV」メーカー(Hanovia社)の HP(英国)

英文の報告書で有効性を示す表に単位が大腸菌などデーターでは菌数になっているのが、マウスと表示があり何故ネズミがいるのか理解できなかった。専門家に聞いたら、ネズミを使って無害化されたかの判定(ネズミが下痢したのかどうか?)を行なって、正常なネズミと被害を受けたネズミの数で効果判定していたわけである。アメリカでは人体を使っての判定も行なったと噂もある。有害なクリプトを何個摂取する腹が下るかをボランティアでテストした。このボランティア集団は囚人だったと言われている。

◆ 実験装置のフロー


◆ 実験条件(UVの照射量について)

試験日

流量(gpm

流量(L/min

 モニター線量

(mJ/cm2

118日、試験1

4.3

16.3

95

118日、試験2

10.0

37.8

38

119日、試験1

40.0

151

10

119日、試験2

4.3

16.3

0          プロセス管理











 Hanovia UVP 61で処理した接合子嚢

Hanovia

 95mJ/cm2

38mJ/cm2

10mJ/cm2

接合子嚢投与量

430,000

42,800

4,300

400,000

39,400

4,100

480,000

48,100

6,300

マウス総数

15

21

21

21

20

22

9

21

20

感染マウス

1

1

1

1

1

1

1

1

1

感染マウスの割合

<.07

<.05

05

<.05

<.05

05

<.11

<.05

<.05

接種材料当りの感染性接合子嚢

14

11

11

11

11

11

20

11

11

Log不活性化

4.5

3.6

2.6

4.6

3.5

2.6

4.4

3.6

2.7

この結果から紫外線照射量の10mJ/cm2の値が重要な重要な意味を持つ。すなわち、通常の大腸菌の消毒に用いられる線量が、この3倍のである30mJ/cm2からだ。予想外の結果であったわけだ。

これら実験には大量のマウスが必要で(無菌マウスは高価らしい)、国内の大学で直接クリプト自体を調べて無害化されたかの判定が出来る手法も開発されている。

このような症例を見るとUVが生物に与える影響の大きさがわかる。大腸菌の消毒も、大腸菌のDNAを破壊する事で以後分裂できなくなり菌としての活動が停止するので人に無害になる。此れよりも少ないUV照射線量で塩素にも耐性がある殻に包まれた大腸菌より遥かに大きなクリプトの機能が欠落するわけである。今まで人類はUVからオゾン層に守られて生活してきたが、近年オゾン層がフロンの影響で減少していることは、少なからず人類のDNAに変調が起こる可能性があるような気もする。日光浴も程ほどにしないと!

太陽光線に含まれる紫外線によるDNAの損傷は知られているが、可視光線によるDNAの修復(光回復)がある。此れは地球上に生物が発生して以来から持ち続けた能力で、この機能を生物が備えていたお陰で地球上に存在できたと言われている。UVで殺菌した大腸菌を天日に晒すと1割が復活する。

DNAに異常が発生してもその影響が出てくるのは、そのDNAの内容がコピーされる次の世代になるわけで、DNAに影響を及ぼす事柄全てに言えることだが子孫に対しての親の責任は重い。

【クリプト対策はUVが最適だが、実行されていない重大な理由】
以上の結果からクリプト対策にはUVが最適だと判別したが世間ではその方向に進んでいない。これには二つの要因がある。(行政が使用を認めていない事が一番の理由だが)

一つは、クリプト対策として、オゾンを当初から採用する予定であったことで、設備費が安くなるUVでは得策でないとの考えがメーカーサイドにある。特に世界的にもオゾン学会の一部門としてUVが含まれていることからも、オゾン推進派の力の方が強い。
国内の環境関係のメーカーの西原環境では、カナダのトロージャン社(ウイルスとは関係ない)のUV装置をクリプト対策用として販売している。

他の一つとして、「カルゴン特許」と呼ばれる不思議な特許がアメリカ・カナダ・オランダで成立している影響がある(その後、香港、ニュージーランド、中国?でも成立。2005年に入って、カルゴンはEU諸国の19カ国で特許を成立させたと発表した)

活性炭の製造で知られるアメリカのカルゴン社がクリプトの無害化を非常に少ないUV照射線量で行なえる事に関しての特許を成立させた(前述のクランシーコンサルタントの実験結果でも示されているが、この結果が特許申請されていた)

オランダではUV装置関係者がこの特許に異議申立てなどで対応しない内に成立してしまったとの事である。ヨーロッパでは水道に紫外線消毒を使用していてことが多く、消毒対象は大腸菌であるが長年の運転実績があるので、この様な特許が出てくる事を予想していなかったのかもしれない。「カルゴン特許」は通常の消毒よりも小さなUV線量で使った場合は対象が大腸菌でなくクリプトだから自分の特許を侵害したとの主張であり、使用に際してはローヤリティーを払えと求めている。実際米国の幾つかの浄水場で、クリプト対策としてのUV使用に対してカルゴン社に特許使用料を支払っている(1ガロンに付き幾ら払う様な契約らしい)

ヨーロッパでは、EU諸国としてこの特許の成立は防止すると英国のUVメーカーが主張している。オランダは一応成立したが国内実績を盾に防御するとのこと。但し米国の水道向けのUV装置輸出を中止又は限定している(米国で特許紛争に関わりたくないので)

米国内でもこの特許はあまりにも現実離れしているので無効にすべきとの意見も多いし、無効の裁判を起こす動きもある(カナダでは裁判所が予備裁判で特許を無効と判断した。米国では認められている。この特許のために、米国ではクリプト対応処理としてのUVを認めない動きもあり、一企業のとんでもない特許の波紋は大きい)

最新の情報としてカルゴン特許をカナダの下級裁判所で無効と2005年6月に判決が出され、それに対してカルゴン社が上級裁判所へ上告していたのが2005年12月8日に判決が出て、此れがカルゴン特許が勝った!
カルゴン社の勝利宣言! 
相手はカナダのトロジャン社(ウイルスと間違われそうな名称の会社だが、UVでは有名)で、カナダのノースベイ市、オンタリオ市のトロージャンの実績に対して特許侵害が成立したようである。

日本国内では、今後どのように経緯推移するか見守っている状態のようだ。以上がクリプト対策の国内の状況である。

クリプトが予想していた以外の低いUV照射線量で無害化できることを発見した事は価値あることだが、それで特許取得し、今までUVで殺菌を行っていなかった浄水場にUVを備えたら、この特許を使ったことだから使用料を払えという考え方は、何か893的な発想だ。いかにも米国人が考え出しそうなことで、此れに対して既に使用料を払っているところがあることも何でも訴訟で騒ぎ出す米国的な現象だ。世界のお邪魔虫的な国の企業が行なったことであるが、オランダのUVメーカーは次の手順で自分の製品を販売している。水道の消毒用としてUV装置を販売する場合、「販売先に対して、将来その使用に関して特許所有者から訴訟を起こされても一切の責任をメーカーに求めない」との内容の書類に同意のサインを提出させた上で製品を納入する。日本では、そんなアブナイ製品を購入する顧客はいないと思うがオランダでは通用するらしい。

「カルゴン特許」対策として、通常のUVランプでなく、パルスUV(連続的にストロボ発光をするランプ)を用いて同様な効果を得ようとする手法も研究されている。
  http://www.iwasaki.co.jp/tech_rep/technical/13/

効果の確認はされているが、装置としての価格面で通常のUV殺菌装置を流用する方式に比べて対抗が難しいらしい。但し、この方式だと照射強度の調整が自由に出来るので、万一浄水場に炭素菌を入れられた時の対応も可能であるとアメリカのメーカーから聞いたことがある。9.11以来、水道水に対しての細菌投入などのテロ対策まで考慮しなくてはならない時代になってきている様であった。

紫外線(UV)に関しての情報を得るのには、国際UV協会という団体(UVメーカーやUV研究者で構成されている)のHPが有効だ。
 IUVAのHP  http://www.iuva.org/

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